虫歯治療のよくある誤解 その1

今回は虫歯治療のよくある誤解についてお話ししたいと思います。
当院にも、今通っている歯医者さんとのやりとりが上手くいかず、セカンドオピニオンを受けに来院下さる患者さんが沢山いらっしゃいます。

しかし必ずしも、今通われている歯医者さんがおかしい、という事ばかりではありません。
上手に治療されている事もありますから、そのような時は、その事をしっかりお伝えしています。
実は、ちょっとした説明の方法や認識のズレから、掛かり付けの歯医者さんを信用できなくなってしまっているケースが沢山あるのです。

当院では、なるべくそのような事が起こらないように、丁寧に、ゆっくりと説明する事を心がけています。
わからない事や不安な事があったら、気軽に質問いただけるような関係を築けるよう、歯科医師、スタッフともに意識しております。
それでも、歯科医師と患者さん、という以前に人と人とのコミュニケーションですから、努力だけでは足りない事もあるかもしれません。

今回はそんな経験から、歯科医師と患者さんにありがちな悲しい、「よくある誤解」を解きたいと思います。

虫歯が1回で治らないのは歯医者さんが下手だから?

必ずしもそうではありません。多くの歯医者さんは、詰め物・被せ物を医院内部で作る事はできないのです。
詰め物や被せ物を製作するには、歯科技工士さんに依頼する必要があります。
精度が高く優秀な技工士さんは忙しいだけでなく、1度に作れる詰め物・被せ物の量も限られています。
繁忙期となれば出来上がるのに時間がかかる事もあります。

また、詰め物・被せ物は手作業で製作する上に、とても高い精度が要求されています。
特に歯を削った面と、詰め物・被せ物の接着面の精度はとても重要です。はめた時にしっかり、ピッタリ入るように作らなければいけません。
しかし詰め物・被せ物の製作は手作りの工程も多く、ごく稀に、精度がきっちり出ていない事があります。
そのような詰め物・被せ物をそのままつけてしまうと欠け・割れや虫歯の原因になってしまいますので、作り直す事もあるのです。

同じ歯が虫歯になったのは治療が終わってなかったから?

一度治した歯であっても、生活習慣の乱れや加齢による噛み合わせの変化や体質の変化などの影響によって虫歯が再発してしまうケースは珍しくありません。
「治したのに歯が痛い!前の歯医者さんにかかるのが不安で…」
と来院いただいた患者さんのお話を詳しくお聞きすると、治療が何年も前だったり、検診を受けていなかったり、お手入れがあまり上手でなかったり…という事もあるんです。

治療前は痛みがなかったのに、治療後に痛みが出てきた

「他の歯医者さんで治したのに、痛みがとれないのでセカンドオピニオンに来ました」
このような患者さんも珍しくありません。
原因は色々ありますが、神経まわりの治療を行った患者さんの場合、"避けられないトラブル"である可能性があるんです。

歯の痛みを感じる原因の1つに、神経(歯髄)の炎症があります。
歯の神経がある歯髄腔という空洞に虫歯菌が入ってしまう事で、この炎症が起こります。

神経を取ってしまう場合、あまりトラブルは起こりません。
当院では、次のような場合、神経を取らざるを得ないと判断しています。

  • 虫歯により、歯髄腔まで穴が空いている場合
  • 虫歯が確認でき、何もしていないのに痛い場合
  • 虫歯が確認でき、暖かい刺激で痛い場合

しかし、痛みがなく、歯髄腔近くまで虫歯が進行していても、神経まで達していない場合、神経を残す選択をとります。
そのまま放置していると虫歯菌は神経まで進み炎症をおこし痛みが出てしまうのですが、まだ神経を残せる可能性が高いからです。
この場合がなかなか厄介なのです。
こう説明するとレアケースのように思えますが、決して珍しくはありません。

実は、このような状況では、歯髄空を守る壁が薄くなっている為、外部からの刺激を受け続ける事で、神経がダメージを受け、弱ってしまっている事があるのです。
その状態で神経を残し治療を終えた場合、神経が弱っている事により、治療刺激に耐えきれず痛みがでてしまうケースが有るのです。

このようなケースでは患者さんに同意を得てから進めるのですが、浅い虫歯に見えても虫歯が進んでいた、というケースが稀にあります。

「じゃぁ何で、痛くなるリスクを負ってでも神経を全部取らないの…?」
という事なのですが、神経を取るデメリットが有るからなんです。

歯の神経は歯を内側から守る機能を持っています。
そのため、将来的に「歯を失うリスク」「歯をより長い期間残せる期待値」は全く異なってきます。

また、これは未来の話ですが、歯の神経は身体の中で最も老化しない組織の一つであり、幹細胞を利用した再生医療(美容系のようなものではなく、厚生労働省から認定された医師/歯科医師のみ行える医療行為)に必要な細胞も歯髄からから培養した歯髄幹細胞を利用する事があります。
歯の神経を残しておく事で、将来的に再生医療が発展し、失った歯を戻せる未来が来る事も夢物語ではありません。

ですから、患者さんの未来のためには(たとえ痛みが出るリスクが有ったとしても)神経を残した方が良い、というのが、いち歯科医師の意見です。